近年、日本を含む世界中の企業がアクティビスト投資家との対話や関わりを持つようになっています。その中で、2010年代初のPepsiCoのアクティビストファンドであるTrian Fund Managementへの対応は、単に要求を飲み込むのではなく、自社の長期戦略を築くことで真の企業価値向上を収めた良い例として参考になります。
Trian Fund Management:2005年にネルソン・ペルツ、ピーター・W・メイ、エドワード・P・ガーデンによって設立された投資管理会社であり、アクティビスト投資で知られている。Trianは、プロクター・アンド・ギャンブル (P&G)、ウェンディーズ、モンデリーズ・インターナショナル、ゼネラル・エレクトリック (GE)、ペプシコ、シスコといった企業に関与し、業務効率の向上、コスト削減、戦略的な変革などの提案を行う。
PepsiCo(ペプシコ):1965年にPepsi-Cola CompanyとFrito-Lay, Inc.の合併により誕生した世界的な食品・飲料企業。1898年に薬剤師カレブ・ブラッドハムがペプシコーラを開発したことに起源を持つ。現在、PepsiCoは炭酸飲料(ペプシ、マウンテンデュー)、スポーツドリンク(ゲータレード)、ジュース(トロピカーナ)、スナック(レイズ、ドリトス)、シリアル(クエーカーオーツ)など、多様な製品を展開。北米とグローバル市場で事業を行い、飲料、スナック、食品の各部門を持つ総合的な企業として世界中で事業を展開。
Table of Contents
アクティビスト投資家によるPepsiCoへの要求と提案
2013年、アクティビスト投資家のネルソン・ペルツ(トリアン・パートナーズ)(当初1.3%株主)がPepsiCoに対し、以下の要求‣指摘・提案をしました。
- 事業構造改革
- 他社との合併
- 事業構造の再編:PepsiCoのスナック部門と飲料部門を分離すること。
- 飲料事業の低迷:炭酸飲料の消費減少を理由に、PepsiCoの飲料事業が業績不振であると指摘。
- スナック事業の価値:PepsiCoの企業価値の約3分の2がスナック事業から生まれているが、十分に評価されていないと主張。
- 戦略的合併の提案:PepsiCoのスナック事業をモンデリーズ・インターナショナルと合併し、グローバルなスナック事業の巨大企業を目指す。
- 株主価値の最大化:現状の企業構造では株主価値が最大化されていないとし、事業の分割や再編でより高い株主価値を生み出せると主張。
- 経営効率の改善:分割により各事業部門が効率的に運営され、市場変化に迅速に対応できると考察。
- 「プランB」の提示:モンデリーズとの合併案が受け入れられない場合、スナック事業と飲料事業の完全分離を求める。
PepsiCoの対応
一方で、当時のPepsiCo社CEOインドラ・ヌーイと取締役会は以下の対応を取りました。
- 分離・合併提案の拒否
- 「パフォーマンス・ウィズ・パーパス」戦略の堅持
- アクティビストとの建設的な対話(トリアンの代表を取締役会に迎入れ)
具体的な内容は以下の通り。
- PepsiCoは、スナックと飲料の統合が長期的価値創造に重要であると主張し、シナジー効果を強調。
- ペルツの提案が選択的なデータに基づくとし、その財務分析に疑問を呈する。
- 短期的な財務エンジニアリングよりも持続可能な長期的成長を重視。
- 「パフォーマンス・ウィズ・パーパス」戦略の成果とさらなる価値創造を強調。
- 健康志向製品の拡大による成長戦略を提示。
- 新興市場での成長機会を重視し、統合された事業モデルの重要性を主張。
- スナックと飲料部門でのイノベーションが競争優位性を生むと説明。
- 株主だけでなく、従業員、顧客、地域社会など幅広いステークホルダーの利益を考慮。
- 現行の事業構造下でも十分な株主還元と投資を強調し、不要な分割や再編のリスクを指摘。
- アクティビスト投資家との対話を継続しつつ、基本戦略は変更しない方針を表明
戦略の成功と企業価値向上
結果的に、ヌーイの戦略と判断は大きな企業価値向上をもたらしました。
- 売上高:2006年の350億ドルから2018年の635億ドルへ約80%増加
- 株価:ヌーイのCEO在任期間中に倍増(Coca-Colaを上回る)
- 製品ポートフォリオ:「Good for You」カテゴリーが50%に拡大
勿論何をもってマネージメント判断の「成功」を図るかは、難しいです。株価の上昇は市場要因もありますし、外部環境などの影響もあります。とはいえ、本件において、アクティビストも70%ほどのリターンを得ることが出来ており、本件は会社と投資家にとってウィンウィンであったと言えるでしょう。
PepsiCoケースから得られる学び
PepsiCoの事例は、アクティビスト投資家の短期的な要求に屈せず、長期的な価値創造に焦点を当てることの重要性を示しています。同社のアクティビスト対応から得られる学びや教訓は多くありますが、総じて以下の事が言えるでしょう。
- クリアで一貫した長期戦略がある
- 事業をアクティビスト視点から分析をする
- アクティビストの要求を言われるがままに受け入れない
- アクティビストのアイディアを頭ごなしに否定しない
- 全ての株主が長期的に恩恵を受ける最善策を考える
PepsiCoの例は、日本企業がアクティビスト投資家と向き合う際の指針となるでしょう。長期的なビジョン、イノベーション、持続可能性、そしてステークホルダーとの建設的な対話を通じて、持続的な価値創造と成長を実現できることをPepsiCoは証明しています。
株価対策、低PBR、アクティビスト、 オアシス、 Oasis、 エリオット、 Elliot,
村上ファンド、東証、TSE、株価対策